蛇口のカエル
2017.06.29
久しぶりに祖母に会いに行った
母のお母さんの、私のおばあちゃん
おばあちゃんの家には縁側がある
そこでおばあちゃんは洗濯物を畳んでいた
夏はよく蚊に刺されてしまうけど、私の家には縁側がないから、その場所が小さい頃から好きだった
久しぶりの縁側
そこから庭を眺める
昔は畑があったけど、足を悪くしておばあちゃんは畑をやめてしまって、今は更地になっている
畑の奥にはみかんの木があって、それは今も元気、毎年美味しいみかんが成る
縁側のすぐ側に水道がある
蛇口を捻る公園にあるような水道
昔そこに大きなカエルがいつもいた
飼ってる訳ではないのに、いつもそこにいた
あのカエルは一体なんだったのか
おばあちゃんの家の七不思議のひとつ
おじいちゃんはずっと昔に亡くなってしまった
おじいちゃんは素敵な人だった
とても寡黙な人だったから、おじいちゃんとゲラゲラ笑った思い出はない
思い出すのは凛とした横顔がほとんど
おじいちゃんは青梅エキスとぶどう酒を毎年作っていた
小さい頃私はお腹が弱くて夜中に良くお腹をこわして起きてしまって、その度に青梅エキスをスプーンの先にほんの少しだけ付けて舐めさせられた
今思い出しても顎が痛くなる程酸っぱい
でも魔法のようにその青梅エキスは私のお腹に効いた
ぶどう酒も夕食の時によくほんの少しだけ飲ませてもらっていた
氷を沢山入れて薄めて
なんだか特別な気分になって、嬉しかった
ガレージの屋根裏に部屋があった
おじいちゃんの物が沢山あるその屋根裏
家とは違う匂いのするその屋根裏は色々な物が置いてあってグーニーズみたいで地図でも出てくる様な気がしていつもドキドキした
そんな素敵なおじいちゃんだった
私が小学5年生の夏休みも終わる頃、おじいちゃんはガンで亡くなってしまった
まだ小さかったからか、おじいちゃんが危ないことも知らされていなくて、ただ入院している事だけ知っていた
その日私は小学校の花壇の水やり当番だった
好きな男の子と同じ当番でとてもウキウキして帰ってきて、テレビを見ていたら、仕事中のはずのお父さんが部屋にやってきて言った
『おじいちゃん死んじゃったよ』
突然すぎてビックリして、悲しみが溢れてきて、お父さんにしがみついてわんわん泣いた
しがみついたお父さんの割烹着が油くさくて悲しくて悲しくて仕方ないのに、そんな事思った
おじいちゃんが大切にしていた盆栽が今も残っていて、形は整えてないけれど、おばあちゃんがきちんと育てていた
おばあちゃんの作る梅干しがこの世で一番好きな梅干しなんだけれど、何年か前から作るのを辞めてしまった
辞める前に、作り方を教えて欲しいとお願いしたけど、大変だからと断られてしまった
お母さんが作る梅干しも美味しいけれど、おばあちゃんが作るものと香りが全然違う
人の手にはやっぱり何か特別なものがあるんだなって大人になって思う
おじいちゃんの作った青梅エキスもぶどう酒も、おばあちゃんの梅干しも、もう食べることは出来ないけれど、驚く程記憶の中で残っている大切な思い出です
あのカエルも